2012.04.29 (Sun)
『アイスクリン強し』
[著者]畠中恵
[出版社]講談社 講談社文庫
[初版発行]2011年12月15日
[感想等]
明治初期、孤児になり横浜の居留地で育った元士族の皆川真次郎(ミナ)
は洋菓子職人として小さな西洋菓子屋を始める。
その友人、元幕臣「若様組」の警官達と日々起こる数々の騒動に大奮闘
する出来事を描いた連作短編集。
収録作品は表題作『アイスクリン強し』他、『チョコレイト甘し』、
『シュウクリーム危し』、『ゼリケーキ儚し』、『ワッフルス熱し』など、
お菓子に関するタイトルになっている。
西洋菓子が珍しい時代の菓子職人の奮闘振りと、彼が巻き込まれる事件や
「若様組」の警官達との友情など、明治初期の青春活劇という感じの作品は、
読みやすく、嫌味が残らないのが、甘いお菓子のようで悪くは無い。
が、時代の様子やお菓子作りの話などは興味深く描かれているのだが、
起こる事件の解決が上手く出来過ぎ感があり、意外な驚きが少ないのが、
少々残念である。

[出版社]講談社 講談社文庫
[初版発行]2011年12月15日
[感想等]
明治初期、孤児になり横浜の居留地で育った元士族の皆川真次郎(ミナ)
は洋菓子職人として小さな西洋菓子屋を始める。
その友人、元幕臣「若様組」の警官達と日々起こる数々の騒動に大奮闘
する出来事を描いた連作短編集。
収録作品は表題作『アイスクリン強し』他、『チョコレイト甘し』、
『シュウクリーム危し』、『ゼリケーキ儚し』、『ワッフルス熱し』など、
お菓子に関するタイトルになっている。
西洋菓子が珍しい時代の菓子職人の奮闘振りと、彼が巻き込まれる事件や
「若様組」の警官達との友情など、明治初期の青春活劇という感じの作品は、
読みやすく、嫌味が残らないのが、甘いお菓子のようで悪くは無い。
が、時代の様子やお菓子作りの話などは興味深く描かれているのだが、
起こる事件の解決が上手く出来過ぎ感があり、意外な驚きが少ないのが、
少々残念である。
2012.03.24 (Sat)
『邪宗門の惨劇』
[著者]吉村達也
[出版社]角川書店 角川文庫
[初版発行]平成5年12月10日
[感想等]
北原白秋の残酷な童謡『金魚』の書かれた
中学時代の同級生だった女性からの招待状に
興味を感じた推理小説作家・朝比奈耕作は、
東京渋谷区の高級住宅地松涛に建つ洋館を訪れた。
そこで待っていたのは、招待状の主とは別の
2人の女性と死体で、彼女らと朝比奈は、
蝋燭に連なる館の中に閉じ込められてしまう。
ワーグナーの歌劇が鳴り響き、金切り声で
白秋の詩が朗読される中、蝋燭が消えていき・・・。
不気味な詩の朗読やワーグナーの流れる
蝋燭だけの明かりの洋館に閉じ込められ、
死体まで見つけてしまうという異常な体験で、
主人公・朝比奈や2人の美女が
段々心理的に追い詰められていく怖さと、
過去の陰惨なイジメという事件の回想とが、
かなり深刻なストーリーなのだが、読みやすいので
あっという間にラストまでたどり着いてしまった。
ラストに判る真実は辛さを感じさせるが、
白秋の童話の怖さを上手く利用している点や、
館に閉じ込められた理由の意外さなどが、
興味深い作品であった。
『邪宗門の惨劇』(amazon.co.jp)
[出版社]角川書店 角川文庫
[初版発行]平成5年12月10日
[感想等]
北原白秋の残酷な童謡『金魚』の書かれた
中学時代の同級生だった女性からの招待状に
興味を感じた推理小説作家・朝比奈耕作は、
東京渋谷区の高級住宅地松涛に建つ洋館を訪れた。
そこで待っていたのは、招待状の主とは別の
2人の女性と死体で、彼女らと朝比奈は、
蝋燭に連なる館の中に閉じ込められてしまう。
ワーグナーの歌劇が鳴り響き、金切り声で
白秋の詩が朗読される中、蝋燭が消えていき・・・。
不気味な詩の朗読やワーグナーの流れる
蝋燭だけの明かりの洋館に閉じ込められ、
死体まで見つけてしまうという異常な体験で、
主人公・朝比奈や2人の美女が
段々心理的に追い詰められていく怖さと、
過去の陰惨なイジメという事件の回想とが、
かなり深刻なストーリーなのだが、読みやすいので
あっという間にラストまでたどり着いてしまった。
ラストに判る真実は辛さを感じさせるが、
白秋の童話の怖さを上手く利用している点や、
館に閉じ込められた理由の意外さなどが、
興味深い作品であった。
『邪宗門の惨劇』(amazon.co.jp)
2012.02.19 (Sun)
『猿島館の殺人 モンキー・パズル』
[著者]折原一
[出版社]光文社 光文社文庫
[初版発行]1995年2月20日
[感想等]
フリーライター・葉山虹子は東京湾の孤島・猿島の取材旅行で、
週一回の船便に乗りそこね、島に取り残されてしまう。
無人島だと聞かされていた島には、猿谷家の人々が暮らしており、
その館に宿泊させてもらえることになった虹子は、主人の藤吉郎が、
密室の書斎で不可解な死を遂げるのに遭遇する。
虹子旧知の黒星光警部が脱獄犯の猿を追って、猿島に来ていて、
虹子と共に次々起こる殺人事件を推理していくが・・・。
名作ミステリ『モルグ街の殺人』を思わせる密室での殺人や
エラリー・クイーンの作品を思わせる設定だが、パロディ風の、
登場人物達も奇妙で、行動もドタバタしているような作品で、
連続殺人が起こっている深刻さが少ない作品である。
また、古典的な名作好きのミステリファンには、
ああ、あの作品のパロディだな、と、簡単に途中で犯人が
判ってしまうかもしれない。
が、最後の最後で、何それ?!と、思わせるオチが待っている。
それが良いとするか、ふざけていると思うか・・・意見が
分かれるのではないだろうか。
私は最初は馬鹿にされたように感じたが、作品全体の
ユーモラスな作風には、実はマッチしている結末だったのかな
と、思い直した。
『猿島館の殺人 モンキー・パズル』(amazon.co.jp)
[出版社]光文社 光文社文庫
[初版発行]1995年2月20日
[感想等]
フリーライター・葉山虹子は東京湾の孤島・猿島の取材旅行で、
週一回の船便に乗りそこね、島に取り残されてしまう。
無人島だと聞かされていた島には、猿谷家の人々が暮らしており、
その館に宿泊させてもらえることになった虹子は、主人の藤吉郎が、
密室の書斎で不可解な死を遂げるのに遭遇する。
虹子旧知の黒星光警部が脱獄犯の猿を追って、猿島に来ていて、
虹子と共に次々起こる殺人事件を推理していくが・・・。
名作ミステリ『モルグ街の殺人』を思わせる密室での殺人や
エラリー・クイーンの作品を思わせる設定だが、パロディ風の、
登場人物達も奇妙で、行動もドタバタしているような作品で、
連続殺人が起こっている深刻さが少ない作品である。
また、古典的な名作好きのミステリファンには、
ああ、あの作品のパロディだな、と、簡単に途中で犯人が
判ってしまうかもしれない。
が、最後の最後で、何それ?!と、思わせるオチが待っている。
それが良いとするか、ふざけていると思うか・・・意見が
分かれるのではないだろうか。
私は最初は馬鹿にされたように感じたが、作品全体の
ユーモラスな作風には、実はマッチしている結末だったのかな
と、思い直した。
『猿島館の殺人 モンキー・パズル』(amazon.co.jp)
2012.01.21 (Sat)
『マボロシの鳥』
[著者]太田光
[出版社]新潮社
[初版発行]2010年10月29日
[感想等]
鳥を失い落ちぶれた舞台芸人のストーリー
『マボロシの鳥』を含む9編を収録した短編集。
爆笑問題の太田光の作品ということで、
辛辣な作品が多いのではないかと思ったが、
優しさや悲しさを感じるような作品が多く、
少し驚いた。
特に巻頭の『荊の姫』などは、メルヘン風で、
タイトルだけでなく内容もグリム童話の一編
ではないかと思わせる作品で、ラストなども、
ちょっとステキだなと思った。
表題作『マボロシの鳥』は奇跡の芸として、
素晴らしい鳥を見せる芸人が、鳥を失い、
仕事も失い、転落していく姿の哀れさと、
思いかげずに鳥を手にして、指導者として
人々を幸福に導くことが出来た男との対比を描き、
なかなか面白かった。けれども、ラストには、
ちょっと期待ハズレを感じた。
またSF風の『タイムカプセル』は、
設定に著者らしい皮肉さを感じさせるように思ったが、
それが嫌味ではなく悪くはなかった。
ただし、時事ネタっぽいワードを散りばめ、
落語っぽい口調の『人類諸君!』は、ギャグも
ストーリー的にもいまひとつな感じがして、
ちょっと残念に思えた。

[出版社]新潮社
[初版発行]2010年10月29日
[感想等]
鳥を失い落ちぶれた舞台芸人のストーリー
『マボロシの鳥』を含む9編を収録した短編集。
爆笑問題の太田光の作品ということで、
辛辣な作品が多いのではないかと思ったが、
優しさや悲しさを感じるような作品が多く、
少し驚いた。
特に巻頭の『荊の姫』などは、メルヘン風で、
タイトルだけでなく内容もグリム童話の一編
ではないかと思わせる作品で、ラストなども、
ちょっとステキだなと思った。
表題作『マボロシの鳥』は奇跡の芸として、
素晴らしい鳥を見せる芸人が、鳥を失い、
仕事も失い、転落していく姿の哀れさと、
思いかげずに鳥を手にして、指導者として
人々を幸福に導くことが出来た男との対比を描き、
なかなか面白かった。けれども、ラストには、
ちょっと期待ハズレを感じた。
またSF風の『タイムカプセル』は、
設定に著者らしい皮肉さを感じさせるように思ったが、
それが嫌味ではなく悪くはなかった。
ただし、時事ネタっぽいワードを散りばめ、
落語っぽい口調の『人類諸君!』は、ギャグも
ストーリー的にもいまひとつな感じがして、
ちょっと残念に思えた。
2011.12.17 (Sat)
『アンのゆりかご 村岡花子の生涯』
[著者]村岡恵理
[出版社]新潮社 新潮文庫
[初版発行]平成23年9月1日
[感想等]
冒頭・第二次大戦下の東京、空襲の続く中、こつこつと
翻訳をしながら、日本や子供たちの将来を思う村岡花子の姿から
始まる本書は、孫娘による『赤毛のアン』の翻訳者・村岡花子の
評伝である。
新潮文庫で、村岡花子による暖かいあとがきのある
『赤毛のアン』に接していた私は、彼女の生い立ちなどが
気になっていたので、本書は非常に興味があった。
孫によって描かれた本書は、村岡花子の心情に迫り、
その視線で描かれている作品になっているせいで、
評伝というよりも、明治・大正・昭和を生きた女性の姿を
描いた小説のようで、面白く、読みやすく感じられた。
もちろん、色々知らなかった彼女のこと、貧しかった子供時代、
クリスチャンだった父の理解によって給費生として東洋英和で
学ぶ機会を得ることが出来たことや、
卒業してからの教職生活や生涯の伴侶との出会いなど、
知ることが出来たのは、嬉しかった。
しかし、一番心に残ったのは、村岡花子が『赤毛のアン』の
舞台であるカナダのプリンス・エドワード島を訪れぬまま、
亡くなったということである。
普通、彼女の育った時代・西洋文化が当たり前にあるような
時代ではない中で育った女性が、外国への留学経験も無く、
異国の作品の初翻訳を成し遂げたのは、かなり無理があったはず
と感じるだろう。
が、彼女の東洋英和時代のカナダ人宣教師達との寄宿生活の
様子を詳しく知ることが出来たので、
彼女がアンの舞台となる異国の風景や風物・心情などを自然と
自分のものにしていた、という風に判った。
あの素晴らしい翻訳が、カナダに行かなかった女性の手で
日本で生み出されたのだと知ることが出来たのが、
私にとっては一番の驚きと収穫だった。

[出版社]新潮社 新潮文庫
[初版発行]平成23年9月1日
[感想等]
冒頭・第二次大戦下の東京、空襲の続く中、こつこつと
翻訳をしながら、日本や子供たちの将来を思う村岡花子の姿から
始まる本書は、孫娘による『赤毛のアン』の翻訳者・村岡花子の
評伝である。
新潮文庫で、村岡花子による暖かいあとがきのある
『赤毛のアン』に接していた私は、彼女の生い立ちなどが
気になっていたので、本書は非常に興味があった。
孫によって描かれた本書は、村岡花子の心情に迫り、
その視線で描かれている作品になっているせいで、
評伝というよりも、明治・大正・昭和を生きた女性の姿を
描いた小説のようで、面白く、読みやすく感じられた。
もちろん、色々知らなかった彼女のこと、貧しかった子供時代、
クリスチャンだった父の理解によって給費生として東洋英和で
学ぶ機会を得ることが出来たことや、
卒業してからの教職生活や生涯の伴侶との出会いなど、
知ることが出来たのは、嬉しかった。
しかし、一番心に残ったのは、村岡花子が『赤毛のアン』の
舞台であるカナダのプリンス・エドワード島を訪れぬまま、
亡くなったということである。
普通、彼女の育った時代・西洋文化が当たり前にあるような
時代ではない中で育った女性が、外国への留学経験も無く、
異国の作品の初翻訳を成し遂げたのは、かなり無理があったはず
と感じるだろう。
が、彼女の東洋英和時代のカナダ人宣教師達との寄宿生活の
様子を詳しく知ることが出来たので、
彼女がアンの舞台となる異国の風景や風物・心情などを自然と
自分のものにしていた、という風に判った。
あの素晴らしい翻訳が、カナダに行かなかった女性の手で
日本で生み出されたのだと知ることが出来たのが、
私にとっては一番の驚きと収穫だった。
2011.11.27 (Sun)
『荒野のホームズ』
[著者]スティーヴ・ホッケンスミス
[訳者]日暮雅通
[出版社]早川書房 ハヤカワ・ポケット・ミステリ1814
[初版発行]2008年7月11日
[感想等]
19世紀末のアメリカ・西部。主人公(おれ)と兄のオールド・レッドは
家族も家も洪水で失い、雇われカウボーイの生活を送っていた。
字の読めない兄だったが、雑誌に載っていたのをおれが読み聞かせた、
シャーロック・ホームズの『赤毛連盟』に感銘を受け、
論理的推理を武器とする探偵を志すようになった。
そんなおれと兄が雇われた、怪しげな牧場で死体が見つかる。
そして、兄がホームズとして、皆に失笑されながらも、
犯人探しを始めることになり、おれはワトソン役を勤めることに・・・。
イギリスではなく西部でホームズが活躍する話ではなく、
ホームズを崇拝するカウボーイが、ホームズの方法を真似して
犯人探しをするという、ちょっと変わったホームズ・パスティーシュで、
ホームズの物語が雑誌に載っていて、人々が楽しんでいた時代を
感じることが出来たのが、良かった。
そして、ホームズが実在しているという設定が何より素敵だ。
もちろん描かれている事件の謎の解決もまずまず面白く、
西部のカウボーイの生活や、当時のアメリカの雰囲気が興味深い。
兄を心配する弟が語り手をつとめているのも、しみじみさせられた。
続編が出ているそうなので、それも読んでみたくなった。

[訳者]日暮雅通
[出版社]早川書房 ハヤカワ・ポケット・ミステリ1814
[初版発行]2008年7月11日
[感想等]
19世紀末のアメリカ・西部。主人公(おれ)と兄のオールド・レッドは
家族も家も洪水で失い、雇われカウボーイの生活を送っていた。
字の読めない兄だったが、雑誌に載っていたのをおれが読み聞かせた、
シャーロック・ホームズの『赤毛連盟』に感銘を受け、
論理的推理を武器とする探偵を志すようになった。
そんなおれと兄が雇われた、怪しげな牧場で死体が見つかる。
そして、兄がホームズとして、皆に失笑されながらも、
犯人探しを始めることになり、おれはワトソン役を勤めることに・・・。
イギリスではなく西部でホームズが活躍する話ではなく、
ホームズを崇拝するカウボーイが、ホームズの方法を真似して
犯人探しをするという、ちょっと変わったホームズ・パスティーシュで、
ホームズの物語が雑誌に載っていて、人々が楽しんでいた時代を
感じることが出来たのが、良かった。
そして、ホームズが実在しているという設定が何より素敵だ。
もちろん描かれている事件の謎の解決もまずまず面白く、
西部のカウボーイの生活や、当時のアメリカの雰囲気が興味深い。
兄を心配する弟が語り手をつとめているのも、しみじみさせられた。
続編が出ているそうなので、それも読んでみたくなった。
2011.11.12 (Sat)
『暁英(きょうえい) 贋説・鹿鳴館』
[著者]北森鴻
[出版社]徳間書店
[初版発行]2010年4月30日
[感想等]
作家・津島好一は鹿鳴館を題材にした新作を書こうとしていた。
設計図さえ残っていない鹿鳴館は、謎の多い建物であり、
なかなか執筆が進まずに悩んでいた津島だったが、編集者に
海南潤一郎(うなみじゅんいちろう)という青年を紹介され、
鹿鳴館の裏門が逗子に現存していることを教えられ、
さらには、彼より出所を明らかにしない鹿鳴館の設計図の
コピーを贈られ、『小説 暁英』という作品を描き始める。
暁英とは、鹿鳴館を設計したジョサイア・コンドルが、
風刺的な絵を描く日本画家・河鍋暁斎に弟子入りし、
貰った雅号である。
この作品は津島が描いた作品という形で、コンドルの視点から
彼の日本での活動が描かれるという構造になっている。
コンドルは、日本人建築家の育成や鹿鳴館を作るためだけでなく、
国際商社ジャーデン・マセソン社から、日本で姿を消してしまった
ウォートルスというアイルランド人建築技術者を探せという密命を
受けていたとして、その探索も描かれている。
が、やはり、一番の謎は、鹿鳴館がどのような建築物だったのか、
コンドルはそういう意志を持って、鹿鳴館を設計したのかだろう。
残念ながら、この作品は著者・北森鴻の急逝で、完結しないで
終わってしまい、津島の小説内のコンドルも鹿鳴館を建設中で、
コンドルの設計の意図は明らかにされていない。
また、津島に設計図のコピーを渡した海南には何か訳あり気だが、
それも判らずじまいである。
出来れば、著者に最後まで書く時間を与えて欲しかった・・・。
しかし、ウォートルスの行方の謎は、一応解決しているし、
何よりも、鹿鳴館を建設したコンドルの人物像や、周囲の人々、
歴史上の偉人も、名も無きような人々までの描き方が良くて、
読み応えのある作品になっている。

[出版社]徳間書店
[初版発行]2010年4月30日
[感想等]
作家・津島好一は鹿鳴館を題材にした新作を書こうとしていた。
設計図さえ残っていない鹿鳴館は、謎の多い建物であり、
なかなか執筆が進まずに悩んでいた津島だったが、編集者に
海南潤一郎(うなみじゅんいちろう)という青年を紹介され、
鹿鳴館の裏門が逗子に現存していることを教えられ、
さらには、彼より出所を明らかにしない鹿鳴館の設計図の
コピーを贈られ、『小説 暁英』という作品を描き始める。
暁英とは、鹿鳴館を設計したジョサイア・コンドルが、
風刺的な絵を描く日本画家・河鍋暁斎に弟子入りし、
貰った雅号である。
この作品は津島が描いた作品という形で、コンドルの視点から
彼の日本での活動が描かれるという構造になっている。
コンドルは、日本人建築家の育成や鹿鳴館を作るためだけでなく、
国際商社ジャーデン・マセソン社から、日本で姿を消してしまった
ウォートルスというアイルランド人建築技術者を探せという密命を
受けていたとして、その探索も描かれている。
が、やはり、一番の謎は、鹿鳴館がどのような建築物だったのか、
コンドルはそういう意志を持って、鹿鳴館を設計したのかだろう。
残念ながら、この作品は著者・北森鴻の急逝で、完結しないで
終わってしまい、津島の小説内のコンドルも鹿鳴館を建設中で、
コンドルの設計の意図は明らかにされていない。
また、津島に設計図のコピーを渡した海南には何か訳あり気だが、
それも判らずじまいである。
出来れば、著者に最後まで書く時間を与えて欲しかった・・・。
しかし、ウォートルスの行方の謎は、一応解決しているし、
何よりも、鹿鳴館を建設したコンドルの人物像や、周囲の人々、
歴史上の偉人も、名も無きような人々までの描き方が良くて、
読み応えのある作品になっている。











